ぽこ あ ぽこ  音楽教室  岐阜ピアノ教室

岐阜県羽島郡笠松町にある 「ぽこ あ ぽこ音楽教室」
ピアノ、ソルフェージュを
丁寧に指導しています

シューベルトは、ピアノ弾きには、なじみの作曲家です。

しかし、中学、高校と、「ふーん」という印象の作曲家でした。
確かに、中学の音楽の授業で習った『魔王』は衝撃的でした。
でも、感動ではありませんでした。

それ以外の曲は、衝撃もなく、
聴いても弾いても、つまらなかったのです。


大学に入学すると、うちの科は、洗礼のような儀式があります。
入学後すぐ、いきなり、弾き合い会があるのです。
教授たちとクラスメイトに、演奏をお披露目…。

その時弾かされたのがシューベルトで、
な〜んにも理解できないまま、ガッチガチに緊張して、
それはそれはズタボロの演奏を披露して、
ますますシューベルトさんとは距離を置いていました。


シューベルトさんのことなんて、すっかり忘れて、
楽しい大学生活を送っていたのですが、
ある日突然、地獄がやってきました。

人生に絶望し、自殺したいけれど、その気力さえ湧かず…。
人間、死のうと思えば、簡単に死ねると思っていたのですが、
自殺するのでさえ、エネルギーが必要なのだと
初めて知ったあの時…。
死ぬことさえできない自分にさらに絶望。

数日、何も食べないことがフツウで、
空腹が限界に達したら、きゅうりをポリリ…。

生きてるのか死んでるのかも分からない状態で、
友人宅を転々として、人にすがりながら何とか生きる日々。

学校がある間は、まだよかったのですが、
学校が休みになってしまったことで、
ピアノの蓋を閉じたまま過ごすこと1ヶ月…。

私、人生で、1ヶ月間もの間、
ピアノを弾かなかったことなんてありません。
3歳からピアノを弾いているのですから、
もう人生=ピアノなわけですから…。

かと言って、正直なところ、
「ピアノがなかったら生きていけない」なんて、
思ったこともありませんでした。

私にとってピアノはとっても大切なものですが、
「何よりも大切」というわけではなかったのです。


それが、1ヶ月ピアノを弾かなかったある日、
突然、ピアノが弾きたくて弾きたくて仕方がなくなりました。

本当に気が狂ったように、何時間もピアノを弾き続けました。
家にある楽譜を片っ端から取り出しては、
どんどん弾いていきました。

そして、シューベルトの楽譜を手に取りました。

即興曲90−1、90−2と進んで、90−3を弾き始めた時、
生まれて初めて、シューベルトの音楽の
あまりの美しさに感動して、
泣きながらその曲を弾き続けました。

人生のどん底で、感動し、癒され、魂が震えたのは、
バッハでも、モーツァルトでも、ベートーヴェンでも、
ショパンでもなく、シューベルトの作品でした。

これは、私にとっては、大変な驚きでした。
とにかく、つまらないと思っていたのですから…。


多分、私は生まれながらに恵まれていたのだと思います。

両親に愛され、祖父母に愛され、
他人に愛される経験もさせてもらって、
人生を共にしてきたピアノがあって、
みんなが人生を模索している時も、
1つの目標に向かっていられた。
子供の頃から、自分を支える夢や信念があった。
貧しくもなく、豊かな生活の中で生きてきた。


そんな私が、生まれて初めて「渇望」したのです。


実は、「今の若者は音楽に対する渇望がない」というのは、
大学入学時から言われていました。
「もっと求めなさい。渇望しなさい。」と。

私にはこの言葉の本当の意味が分からなかったのです。

ある程度、満たされているのですから、
渇望なんてしたことがないのです…。
空腹で死にそうになったことがないのです。

心が空っぽになった時、
私は、こんなにも音楽を欲するなんて、
思ってもみなかったのです。


これは勝手な想像ですが、
シューベルトは、音楽に、生きることに、
きっと渇望し、執着したのでしょう。

だから、私はシューベルトに救われたのだと思います。
共感と言うべきものだったのかもしれません。

シューベルトの音楽がつまらないのは、
私が恵まれていた証拠でもあったのです。



さて、人生どん底から救い出してくれた
もう一人の人物が、主人でした。

枯れ果てていた私の心に、
水を注ぎ、日を照らし、風雨から守り、栄養を与え、
真っ暗な夜には月明かりをくれたのが彼なのです。

すっかり満たされ、うるおった私は、
その後また、シューベルトさんとは
疎遠の日々を送っています。

シューベルトさんは、私にとって、
昔の恋人のような存在になっています。

できることなら、シューベルトさんとは、
「思い出の彼」のまま、人生を送りたいと思っています。

うっかり再会するなんてことがありませんように…。

コメント

 コメント一覧 (4)

    • 2. きみこ
    • April 22, 2010 04:58
    • うーん、きみこは披露しないと思うよ。
    • 3. nozomi
    • October 26, 2010 21:50
    • kimikoさんと同音大を遥か昔に卒業した者です。
      大学の試験の時にシューベルトのソナタが課題に出されました。何てつまらない・・と思いました。
      でも、色々苦しく息の詰まる様な人生経験を経てシューベルトの長調の曲を聴いても泣けてくるのです。あの昔には考えられなかった事です。
      あの時から少し淋しい印象の曲でしたが、20年程経った今それを聴いて涙するのは不思議。音楽って・・ピアノってて・・・心そのものなのですね。
    • 4. きみこ
    • January 14, 2011 02:08
    • nozomi様

      コメントをいただいていたのに、
      気付きませんでした〜〜〜。
      申し訳ありません(T T)

      先輩なのですね!
      とっても嬉しいです。

      nozomiさんもいろいろな経験をされたのですね。
      私も辛いことがありました。
      でも、全てが私の血肉となり、
      そして全てが音楽に通じていると感じます。

      そして、作曲家もまた、
      その身を削り、自分の血肉のような作品を
      書いていたのだろうと思います。

      音楽って、本当に心そのものですよね。
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